第二条 製品の調理法について
2.1 円形生地の作製
2.1.1 原材料
00タイプの小麦粉:良く挽いて繰り返しふるいに掛けられた軟質小麦の粉で、色は白く黒点のないもの。低いパーセンテージ(5~20%、気温による)であれば、00タイプの小麦粉を補強する意味で0タイプの小麦粉(マニトバ)を加えることも認められている。
長時間発酵を前提として、伸展性と弾性を備えた生地の作成のための最も良い値:
- アルベオグラフのW値:220~380
- アルベオグラフのP/L比:0.50~0.70
- ファリノグラフの吸水率:55~62
- ファリノグラフの生地安定度:4~12
- ファリノグラフのv.v. :max60
- フォーリングナンバー:300~400
- 無水換算グルテン量:9.5~11g%
- 粗蛋白量:11~12.5g%
これらの数値は中位の強さの小麦粉における典型的なものであり、パンの製造にも同様に適している。
原料としての水:清潔で安全であること。発泡性でなく、人体に悪影響を及ぼす微生物や化学物質が混入していない、食品や飲み物に使用できる飲料水として家庭用や産業用として使われているもの。
使用温度:20~22度
硬度:中程度
pH =6~7
塩:海水でつくられた食塩が使用されること。(食塩)
酵母:市販されているビール酵母で、黄色からグレーおよび麦わら色を帯びてほとんど味はなく、わずかな酸味がある。一般に家庭で使用される25から500gで包装された生のビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)が使用されなければならない。(省令21/03/1973及び18/06/1996) 自然酵母の使用も認められている。
生地にはいかなるタイプの油脂も添加されない。
2.1.2 分量と調理法
生地の配合:(水1リットルに対する各種の材料の理想的な分量は以下の通りである。)
水 1L
食塩 50~55g
酵母 3g
小麦粉 1.7~1.8kg(小麦粉の強さによる)
作業時間 小麦粉を振り入れる時間10分(生地がまとまる(punto di pasta)状態になるまで)
練る時間 ゆっくりとした速度で20分
第一次発酵 発酵室あるいは木製の番重の中で2時間
分割成形 約180~250gの生地玉
第二次発酵 番重で4~6時間
発酵温度 室温(25℃)
保存(室温) 6時間以内
季節ごとの条件にもよるが、製品の安定性を保つため、温度と湿度が調整できる発酵室を使用することが望ましい。
2.1.3 調理法
生地づくりに用いられる技術はストレート法といわれる。
「真のナポリピッツァ」の下ごしらえは、以下に述べる作業段階を経てのみ行われる。
小麦粉、水、塩と酵母を混ぜ合わせるために、まず1ltの水をミキサーに入れ、50~55gの塩を溶かし入れ、小麦粉の10%を加える。続いて3gの酵母を溶かし入れてミキサーを起動させて適当な生地の硬さである「生地のまとまった(punto di pasta)」状態になるまで少しずつW220-380の小麦粉を足していく。これらの作業は10分かけて行われる。生地はミキサーの遅い速度で、程よい硬さになるまで約20分かけて練られる。ミキサーのタイプはフォーク型が望ましい。最適の硬さの生地を得るためには、小麦粉の吸収することのできる水の分量が大変重要である。生地はべたつかず、柔らかで弾力性がなければならない。
2.1.4 特徴
発酵中の生地の特徴は、10%程度の誤差を許容範囲として下記の通りである。
発酵温度 25℃
最終pH 5.87
滴定酸度 0.14
比重 0.79g/cc(+34%)
2.1.5 発酵と成形
第一次発酵:練る作業を終えてミキサーから取り出した生地は「つや」があり、「なめらか」な手触りである。これは工学的特徴という観点から見ると「非常に伸張性があり」「弾力性にやや欠ける」といえる。生地は表面が乾いて固くなるのを防ぐため、湿らせた布巾に包んで、ピッツェリアの作業台の上に2時間置かれその後生地はピッツァ職人の手のみで成形される。まず生地は作業台の上でスケッパーの助けをかりて切り取られ、その後一人前の分量に丸く成型される。ナポリでは生地を(モッツァトゥーラ)と呼ばれるモッツァレッラの成形に似た手法で小さなボール型に成形(この成形法はスタッリォと呼ばれる)していく。「真のナポリピッツァ」であるためには、このボール型の生地は180~250gの重さでなくてはならない。
第二次発酵:ボール型に成形された生地(スタッリォ)は番重で4~6時間さらに発酵される。こうして出来上がった生地は室温で保管され、その後6時間は調理に最適な状態を保つ。
2.2 円形生地の成形
数時間に及ぶ発酵を経た生地玉は、スケッパーを使って箱から取り出され、生地同士の付着を防ぐために小麦粉で打ち粉をした作業台にのせられる。ピッツァ職人は生地の中心から外縁に向かって何度も両手指で圧力を加え、焼成後の中心部が0.4cm(10%程度の誤差を含めて)の厚さになり、「コルニチョーネ」が1~2cmになるまで延ばしていく。
成形はすべて手で行われる。無数の気泡の中に含まれる空気を、厚く盛り上がったまま残る外縁に向かって移動させていく技術は、ひとえにピッツァ職人の腕にかかっている。こうすることで、いわゆる「コルニチョーネ」といわれるこの耳が、中央に具を保つ役割を果たす。「真のナポリピッツァ」の調理には、これ以外の方法は認められない。特に、生地を延ばすための円形の圧縮機やめん棒も使用されない。
2.3 円形生地の調理
2.3.1 材料(詳細については添付の資料参照)
生トマト:アグロ・サルネーゼ・ノチェリーノ平野のサン・マルツァーノD.O.P.
コルバーラのプチトマト(コルバリーノ)ヴェスヴィオ火山のピエンノーロD.O.P.
ホールトマト:アグロ・サルネーゼ・ノチェリーノ平野のサン・マルツァーノD.O.P.
細長いローマ種のトマトは、生トマトでもホールトマトに加工されたものでも使用が認められている。
ホールトマトは、水分を切り、手でつぶして均一になるように混ぜておくことが望ましい。
遺伝子組み換えのトマトは除外される(使ってはならない)。それは栽培と保存の両方またはいずれかの段階においてDNAに対して処理をするか、電離放射線で処理をしたものまたはその両方のことである。
モッツァレッラ:カンパーニア州産水牛モッツァレッラD.O.P. モッツァレッラS.T.G.
アペンニーノ山脈産「フィオル・ディ・ラッテ」D.O.P. または認証を受けたその他のフィオル・ディ・ラッテ。
オイル:ピッツァの焼成温度や時間は、それほど過酷なものではないが、調理に用いられるオイルは酸化しにくく、高温でも安定したものを選ぶ必要がある。つまり、オリーブ・オイルとなる。
低温で圧搾され、精製加工を施されていないエクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルあるいはヴァージン・オリーブ・オイルはトコフェロールという天然の抗酸化物質が変質せずに含まれている。そのため、加熱に最も適しているのはオリーブ・オイル、特にヴァージンオイルに比べて酸化度の低いエクストラ・ヴァージン・オイルということになる。カンパーニア州産オイルであっても特に、大味なものや苦みが強いもの、後味に舌をしびれさせるような酸味があるもの、風味については、キュウリのようにぼけた味、焦げ味のあるもの、悪臭や刺激臭のあるもの、古いものは避けなければならない。
オリガノ:"Origanum Vulgare"しそ科
バジリコ:生バジリコまたはパックされたバジル
チーズ:硬い性質のもの(すりおろし用)
2.3.2 分量と調理法
マリナーラ:
ホールトマト 70~100g
オリーブ・オイル(ヴァージンまたはエクストラヴァージン) 4~5g(許容範囲は+20%)
にんにく 1片
オレガノ 0.5g(ひとつまみ)
塩 適量
マルゲリータ:
ホールトマト 60~80g
オリーブ・オイル(バージンまたはエクストラヴァージン) 4~5g(許容範囲は+20%)
モッツレッラ(水牛またはS.T.G.)またはフィオル・ディ・ラッテ 80~100g
(フィオル・ディ・ラッテは牛乳のモッツァレッラ)
生バジリコ 数枚
硬質チーズ(すりおろして使う) 10~15g
塩 適量
以下の産地表示のあるトマトを各品種の特性を活かしながら加工して、ホールトマト(皮むきトマト)に追加したり代用したりして使用してもよい。(アグロ・サルネーゼ・ノチェリーノ平野で生産されたサン・マルツァーノ種D.O.P.、コルバーラのプチトマト(コルバリーノ)、ヴェスヴィオ火山のピエンノーロ種D.O.P.)
2.3.3 技術
マリナーラ:
スプーンで生地の中心に潰したホールトマトをのせ、円を描くように全体に均一に広げる。
(小さく刻んだ生トマトをトマトソースに追加したり代用したりしてもよい)
にんにくは、外皮をむいて小さなナイフで薄切りにしておいたものを、トマトの上に散らす。
オレガノは、トマトの層の表面になるべく均一になるようにふりかける。
塩は、(もしトマトソースに含まれていない場合)ピッツァの表面全体に均一にふりかける。
オリーブ・オイルは、先の細い口金のついた銅製の小さな容器に入れ、生地の中心から外縁に向かって円を描くように回しかける。
マルゲリータ:
スプーンで生地の中心に潰したホールトマトをのせ、円を描くように全体に均一に広げる。
(刻んだ生トマトをホールトマトに追加したり代用したりして使用してもよい)
塩は、(トマトソースに含まれていない場合)ピッツァの表面全体に均一にふりかける。
モッツァレッラまたはフィオル・ディ・ラッテは、あまり厚くない拍子切りにし、ピッツァの表面に均一にのせる。
すりおろしたチーズ(使用する場合)は、ピッツァの表面に円を描くように全体に均一にふりかける。
何枚かのバジリコを具材の上に置く。
オリーブ・オイルは、先の細い口金のついた小さな銅製の容器に入れ、生地の中心から外縁に向かって円を描くように回しかける。
2.4 具材をのせた円形生地の焼成
焼成は天板などを使用せずに直接窯の床面(炉床)で行われなくてはならない。
ピッツァ職人は、少量の小麦粉を手で回す動きを用いながら打ち粉を施した木製(またはアルミ二ウム製)のパーラを使い、ピッツァを窯に移動する。ピッツァは炉床の上で動きやすいようになっており、具がこぼれないよう素早い手首の動きで瞬時に窯入れを行う。
焼成は485℃にも達する専用の薪窯で行わなければならない。
ピッツァ職人は金属性のパーラを使い、端を持ちあげて焼加減を見なくてはならない。ピッツァを火の方へ回転させながらも、温度の違う場所で焼成されることによる焦げを防ぐためいつも最初と同じ場所を使わなければならない。ピッツァの周り全てが均一に焼かれることが大切である。
焼成の最後に、金属製のパーラを使ってピッツァ職人はピッツァを窯から取り出し、皿に置く。焼成の時間は60 秒から90 秒の間でなくてはならない。
焼き上がったピッツァは次のような特徴を示す。
トマトは、余分な水分のみがなくなり、濃く、果肉感がある。カンパーニア州産水牛のモッツアレッラD.O.P.、モッツアレッラS.T.G.またはアッペンニーノ山脈南部産フィオル・ディ・ラッテはピッツァの表面に溶けている。バジリコ、にんにく、オレガノは深みのある香りを醸し出し、見た目にも焦げ目がない。
‐炉床の温度約485℃
‐窯の天井の温度約430℃
‐焼成時間60~90 秒
‐生地の到達温度60~65℃
‐トマトの到達温度75~80℃
‐オイルの到達温度75~85℃
‐モッツアレッラを加えた時の温度65~70℃
2.5 焼き上がりの外観と味
真のナポリピッツァはふっくらと柔らかく、しなやかで、本のような形にたやすく折り曲げることが出来なくてはならない。コルニチョーネから来る特徴的な味は、よく膨らんでよく焼けた典型的なパンのおいしさと同じで、余分な水分だけが無くなったトマトの酸味と一体となり、濃くしっかりした味はオレガノやにんにくまたはバジリコに引き立てられ、かつ焼けたモッツァレッラの味と一体化している。
2.6 保存
真のナポリピッツァは窯から出された直後に食べるべきである。製造された店舗で消費が出来なかった場合であっても、次回の販売のために冷凍、急速冷凍、真空パックをしてはならない。
第三条 調理用具
3.1 ミキサー
使用されるミキサーは、一般的に、やや堅い生地から柔らかい生地を練るのに適した2段変速の「フォーク型」あるいは「スパイラル型」のものである。フォーク型に比べ、スパイラル型のミキサーは、生地に空気が入る(酸化作用)程度が低いためより多くの熱が発生する。
「ダブルアーム型」のミキサーを使うと、作業時間が短縮され、非常に良い状態で生地に空気を入れることが可能となる。
生地の練りすぎは(機械的な加熱が続けられることにより)、生地の「硬直」すなわちそのような網目状グルテンの繊維組織の形成をもたらし同時に機械自体への重大な損害も起こる。
3.2 番重とスケッパ-
3.2.1 番重
分割されたピッツァの生地玉は丸め作業の後、番重に入れられ、その中で発酵される。これによりその後の成形、トッピング、焼成の工程のために使用可能な状態で保管される。
3.2.2 スケッパ-
ピッツァ職人は成形のため生地をカットする時、及び生地玉を一人前分ずつ番重から取り出す時にスケッパ-を使用する。
スケッパーは三角形の金属製の道具で耐久性のある特殊な木(ブナとアカシア)でできた柄と鋼鉄で出来ている歯の部分とからなっており、形状はいろいろなものがある。
3.3 窯とパーラ
3.3.1 窯
薪窯の形状は何世紀にもわたり根本的に変わっていない。薪窯には内部の温度を一定に保つために2重構造のドーム状の屋根がついている。レンガ製またはコンクリート製のドーム型屋根は機械工学的にも安定していなければならない。
炉床と開口部の大きさは正確に計測されなければならない:開口部は45cm から50cm、一番高いところで22cm から25cm である。一方伝統的なナポリの窯の炉床の直径は120cm から150cm である。
これよりも大きな直径の窯でも6 枚のピッツァを同時に焼成することはしない。窯の底面は通常4つの円錐型に分けられ、砂と塩を混合したものを敷くことにより熱の伝導や断熱の効果がある。
3.3.2 パーラ
パーラは通常、次の2 種類が使用される。
木製またはアルミニウム製のパーラ:ピッツァの窯入れに使用される。ピッツァ職人は、ピッツァの滑りを容易にするため、パーラに少量の小麦粉をふりかける。窯の平面に対して20度から25度ぐらいの角度にパーラを支え、手首の素早い動きで瞬時に窯入れを行う。
鉄のパーラ:焼き窯の中のピッツァを移動させ、焼き上がりに窯から取り出すために使用される。
3.3 薪
ナポリピッツァの焼成は煙や臭いでピッツア自身の香りを害わないような木材を使用する(樫、西洋トネリコ、ブナ、カエデの木)。
ナポリの伝統では、ピッツァ職人は瞬時に着火してすばやい温度上昇を可能にする木屑(ナポリ方言ではパムプリァと呼ぶ)を加えて、窯の温度を上昇させることもある。